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対魔征伐係.227「神卸し」


「・・・くそぅ・・・」
大きく肩で呼吸を整えながら両膝に手を置き、溜息混じりにぼやく真司。
全身は痣と擦り傷だらけだった。
それは真司だけでなく、前衛の面子は漏れなく同じ状態で息が上がっている。
「休む暇はないわよ」
「・・・分かってるって・・・!」
郁に言われ、再び目の前の地上神へ飛び込む。
後衛の攻撃もしっかりと行われているが、焼け石に水どころではなかった。
それでも前衛組みは前へと踏み込まなくてはならない理由があった。
今の地上神ならばこの浮き島全てをカバーできる攻撃範囲がある。
相手の攻撃から少しでも逃れようと遠くへ、後衛組みの近くへと戻ってしまった場合・・・
前衛を狙ってきた攻撃が後衛にまで飛び火してしまうのだ。
後衛組みは当然のように、守備面は前衛組みと比べて脆弱である。
故に前衛組みは休む暇も無く、自分を囮にするように相手へと向かう必要性があった。


「・・・この・・・野郎ッ・・・!」
叫びながら真司は刀身を限界まで伸ばしながら地上神へと斬り付ける。
郁や閑流も全力で攻撃を行う。
だが・・・
「・・・最早、遊び相手にもならぬな」
心底退屈そうな声が頭上から聞こえた。
その瞬間。
眼下の羽虫を払うかのように地上神の巨大な片腕が真司たちを薙ぎ払う。
相手にしてみれば何のことはない、軽く払った程度だろう。
だが真司達にしてみれば巨大な石柱、壁が凄まじい勢いで迫ってくるのと同義なのだ。
「ぐっ・・・ぁ・・・」
全力を持って迫り来る壁に対して防御体勢を取る。
片腕だけでもちょっとしたビル程度はあるので、避けることなどは不可能だった。
地上の瓦礫を巻き込みながら、砂塵を巻き上げながら・・・真司達は轢かれるのみである。
霊力を全て注ぎ込む勢いで防御に回った真司は軽々と吹き飛ばされる。
そんな全力、死ぬ気での防御が幸いし、ぶつかった時に骨が軋み、軽々と吹き飛ばされ、思い切り地面へ叩き付けられる程度で済んだ。
「・・・はぁ・・・くそぅッ・・・」
一般人ならば一撃で命は無いような攻撃を何度も受けている前衛組み。
今でもこうしてふらつきながらも立ってられるのが不思議なくらいである。
だが、既にこの時点で精神力、気持ちで立ち向かっていると言ってもいい状態だった。
とっくの昔に戦いと言うものですらなくなっているのだ。
地上神にしてみれば真司達の攻撃など攻撃ではない。
人間に例えるならば足元で小動物がじゃれて来るようなものである。
その光景はとても戦闘を行っているとはお世辞にも言えるものではない。


「真司、大丈夫・・・じゃないわよね・・・」
「・・・流石に・・・こりゃ・・・大丈夫とは言えないな・・・」
ふらつきながらも何とか立っているだけの真司に真妃が駆け寄る。
後衛組みも巻き添えの形で何度か攻撃は受けているのでやはり真妃も傷だらけだった。
再生能力や瞬間移動と言った能力による問題ではなく、純然たる圧倒的な力の差がある。
何時でも何とかなる精神で生きてきた真司も流石に今回ばかりは考えたくは無かったが・・・絶望感が頭を過ぎってしまう。
「・・・真司、遥香、二人とも結界を張って頂戴」
真司の耳に郁の声が入った。
「結界ったって・・・あんな馬鹿でかいヤツは流石に・・・」
今の霊力も限界近い真司にはそれは余りにも酷だと思われた。
「そうじゃなくて、皆を結界に入れて・・・あいつの攻撃から少しの間だけ皆を守って欲しいのよ」
「・・・守るって・・・何か考えがあるのか?」
今までは守っていても勝機は生まれるわけはないと果敢に攻めていた真司たち。
「・・・えぇ・・・私と恵理佳にとっておきの策がね・・・だから真司と遥香で何とか五分・・・三分だけ皆を死守して頂戴」
「・・・分かった」
一体どんな策があるのかは予想もつかなかったが、ここは二人に任せることにした。
郁の話を聞いていた皆がそれぞれ一箇所に集まる。
こんなところを相手に叩かれてはそれこそ一網打尽である。
「・・・一人が結界を張っている間にもう一人が何時でも張れる様に待機・・・破られたら即座に展開・・・それでいい?」
「了解」
遥香の確認に頷く真司。
「それじゃ・・・私から行くから・・・!」
言いつつ遥香は皆の周りに淡く光る壁を作り、結界を展開させる。
それと同時にすぐさま真司も結界の印を組み、瞬時に展開できるように用意しておく。


「・・・死ぬ間際の時間稼ぎなど・・・滑稽なことを・・・」
真司達の行動を見ていた地上神、女が不憫そうに呟く。
遥香が結界を展開させた直後から、郁は言葉を呟き始める。
その言葉は聞いたことも無いような異国の言葉であり、その意味は理解できない。
そして遥香と真司は皆よりも一歩前へ出ていたので背中越しに声は聞こえてもどうなっているのか視認は出来ない状態だった。
振り向いてしまうと集中は途切れ、結界準備が破綻してしまうので現状維持は必須である。
「・・・それは・・・そうか・・・無駄な足掻きを・・・!」
郁と恵理佳の様子で何かに気がついた女は声色を変え、その巨大な腕を振り上げる。
(・・・何だ・・・?)
その余りの変化に真司はより後ろが気になってしまうが、今はまさに相手から攻撃をされようとしている。
今こそ集中しなくてはならない時だった。
「・・・くっ・・・響くわね・・・」
地上神の桁外れの巨大な腕が何度も皆の居る結界の壁に叩き付けられる。
激しい衝撃音が鳴り響くたびに遥香が苦悶の表情をする。
あれほどの巨大なモノが何度も振り下ろされる攻撃をこうして数回でも耐えられているだけでも、やはり結界術は偉大だと痛感する。
そんな結界が消失すれば皆まとめて潰されて即死は免れそうもない。
真司はより神経を研ぎ澄ます。
「・・・もうそろそろ・・・駄目・・・ッ!」
何度目かの攻撃・・・皆の周りを囲っていた光の壁が霧散する。
同時に遥香は大量の汗を掻いて膝を付く。
「しばらくは・・・任せておけ・・・!」
瞬間、今度は真司の結界が皆を囲む。
遥香はそのまま肩で大きく呼吸を整えながら次の出番まで身体を休める。
(・・・こんな重い攻撃・・・よくあんだけ・・・)
真司の結界にも容赦なく地上神の腕は振り下ろされる。
激しい衝撃音が鳴ると同時に真司の両腕、全身に思い切り負荷が掛かる。
只でさえ消耗している真司には酷だったが・・・だからこそ集中して気持ちでカバーする必要があった。


真司が必死で地上神の攻撃から皆を守っている時・・・
僅かに真司の耳に恵理佳の声が入って来た。
それは先ほどの郁と同様、真司が聞いたことも無い言葉だった。
「・・・くッ・・・そう・・・」
何度目かの攻撃を受け・・・真司の結界もまた破壊されてしまった。
だが、事前に準備していた遥香の結界が再び張られる。
二度目の結界だけに恐らくは先ほどよりも短くなるだろう。
時間が経つにつれ、ジリ貧は免れない。
だが、時間的に三分はもうすぐの筈だった。
真司は片膝を付いて大きく呼吸をしながら何とか次に備える。
そして休憩の最中・・・ふと郁と恵理佳が気になった真司は僅かに意識を後ろへと持っていく。
その時だった。
(・・・この感じは・・・?)
真司は何処かで感じたことのある違和感を感じる。
思わず後ろを振り返ってしまう。
そこには郁と恵理佳、二人が先ほど聞いた謎の言葉を呟く姿があった。
この瞬間、真司は全てを察した。
「・・・まさか・・・師匠!これは・・・」
「馬鹿!集中して!」
真司が二人の下へ向かおうとした瞬間、遥香に言葉で釘を刺される。
真司の予想が正しければ二人は止めなくてはならない、だが、今は皆を守るためにこの場を離れる、集中を途切れさせるわけにもいかない。
そんな葛藤が生まれ、真司はその場で踏みとどまる。
程なくして・・・二人は言葉を紡ぐのを止めた。
「・・・恵理佳、お前・・・」
「・・・兄さん、ごめんなさい・・・ありがとう・・・」
「・・・何・・・」
柔らかい笑みを浮かべる恵理佳の言動に真司は戸惑うばかりで言葉を掛けようとしたが・・・
「馬鹿!」
「・・・!しまっ・・・」
遥香の声で呆然としていた頭が我に帰る。
気がつけば周りに結界はなく、上からは地上神の腕が目前まで迫っていた。
準備を完全に失念していた真司には今からではとても間に合わない。
自分の行動を恐ろしいほどに後悔した瞬間・・・


「・・・?」
完全に潰されたと思ったタイミングになっても未だに何ともない自分を不思議に思い、勢いで瞑ってしまった目を開く。
「・・・恵理佳・・・?」
「・・・」


1p666.jpg


目の前には恵理佳が立っていた。
そしてその片腕で地上神の常識外れの巨大な腕を受け止めていた。
真司が呆然としつつも名前を呼ぶが・・・恵理佳は微笑むだけで返事は無かった。
「・・・お前は・・・」
言いかけた言葉を飲み込む真司。
それを言ってしまうと自分で認めてしまうことになる。
確かに恵理佳に見える。
だが、赤味の入っていた長髪が今では完全な赤に染まっていた。
何よりも、目の前の恵理佳から感じる気配、雰囲気は真司の知っているそれではなかった。
そして、真司が言い出せなかった言葉を地上神が代弁することになってしまう。
「・・・よもや・・・このような形で再会するとは・・・しばらくぶりじゃないか?天上神」
「・・・」
その巨大な腕を引き下げつつ楽しそうに呟く女。
対する恵理佳の見た目をした天上神と呼ばれた目の前の少女は黙したまま女を睨む。
「・・・やはり・・・お前は・・・」
「・・・下がっていてください」
「・・・」
未だに半信半疑のままの真司の問いかけに対し、天上神は丁寧な口調ながらに強い言葉で真司に告げた。
その瞬間、真司の予想は確信に変わったのだった。

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Author:シンヤ(nanpP
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・えろい。
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