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平日の夜。
バイトもなく、今日も今日とて閑流の手料理で腹を満たした真司はまったりとリビングで寛いでいた。
秋も深くなり、気温的にも過ごしやすく、仕事も無く・・・とても平和だった。
(・・・ん・・・?)
そんな時、真司はふとあることに気がつく。
リビングには真司しか居ない。
閑流は只今入浴中である。
基本的に閑流の方が早く寝るので、風呂の時間も相対的に早くなる。
だが、気がついたのはそんなことではない。
入浴中だということは当然知っていた。
真司が気がついたのは・・・
(・・・閑流のやつ・・・また着替え忘れて行ったな・・・)
住居が変わり、間取りも変わり・・・慣れないだけなのか、もとから少し抜けているところがあるのか・・・
今までも何度か閑流はこうして着替えを忘れて入浴を始めてしまうことがあった。
別段、それだけなら問題でもないのだが・・・
(・・・急がないとな・・・)
真司は急いで今は閑流の少ない衣類が詰められている箪笥の戸を引く。
そこから適当に閑流の着替えを引っ張り出す。
そして急いでその場を立ち上がろうとした時だった。
「真司」
「・・・・・・」
リビングにバスタオルで頭を拭きながら閑流が入って来た。
一糸纏わぬ姿で。
思わずその場で固まる真司。
「すいません、また着替えを・・・」
「・・・だから・・・別に・・・風呂場から言えば俺が持って行くと・・・」
直視できない真司とは対照的に閑流は全く平然としている。
「・・・いえ、私の不手際ですし」
「・・・あぁ、分かったから・・・さっさっとコレ持って風呂場で着替えてこい」
「ありがとうございます」
「・・・」
最初の不意を突かれた時以外は何とか閑流を見ずに着替えを渡し、その場を乗り切った真司。
閑流がリビングを出て行くとその場で深い溜息を吐きながらがっくりと肩を落とす。
「・・・参った・・・」
女好きの真司とは言え、閑流の裸を見たくらいで欲情したり反応してしまうようなことはない。
だが、逆に言えば閑流の裸を見てもなんとも思わないのかと聞かれればそれは否定せざるを得ない。
例えあのような体つきでも異性は異性である。
真司がこうして参る最大の要因は、閑流と真司の差だった。
真司は少なくとも閑流のことを異性として見ている。
恋人だとかそういう意味ではなく、一人の少女としてだ。
それに比べて、閑流の方は今までの応対からして真司に異性を感じている様子は微塵も無い。
恐らくは真司のことは閑流の伯父が頼んだ保護者代わりくらいにしか思っていないのだろう。
今まで男性とまともに接してきたのが伯父だけならば納得のいく話である。
だが、真司はそう思っていてもやはり考えてしまう。
(・・・俺、男の魅力とかないのかなぁ・・・)
馬鹿なことを考えつつ溜息を吐く。
「・・・まぁ・・・閑流があの体型でまだよかったか・・・」
自分自身に言い聞かせるように呟く。
万が一にでも閑流の発育がもっとよく、出るところが出て引っ込むところが引っ込んでいれば・・・
どうなっていたかは定かではない。
そう考えれば不幸中の幸いとも考えられる。
「・・・私が・・・どうかしましたか?」
「・・・」
一人考え事をしていた真司に閑流の声が掛けられる。
着替えは終わったようだ。
「・・・今日はもう入浴は終えてしまいましたので・・・」
「・・・?」
閑流は静かに話しながら今は真司と二人で寝ているベッドへ向かう。
「・・・明日の剣の稽古の時を楽しみにしていてください」
「・・・・・・」
それだけ言うとベッドへもそもそと入る閑流。
「では・・・先に失礼します」
「・・・おやすみ・・・なさいませ」
勝手に口調が変化するのも已む無しである。
この瞬間ほど、翌日の閑流との稽古をサボりたいと思ったことは無かった真司だった。
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