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東方夢幻能RE/第13話「永遠亭へ①」


-紅魔館・真司の部屋-


「…薬箱…?」
「はい」


珍しく咲夜が真司の部屋に尋ねてきた。
その手には薬箱が持たれていた。
真司が何度もお世話になっている箱である。


「それを永遠亭まで…それは別に構わないんだが、何故俺に?」


基本的に、炊事洗濯から買い物まで。
すべてのことを咲夜は一人で行う。
それが出来る上に、館のほかの面子が余り頼れないという実情があった。
それ故に今回の薬箱の中身の補充、永遠亭までの使いを真司に頼んできたのが率直に疑問に思えたのだ。


「…うちで病気になるような方は居ません。怪我をする方も居ません…一人を除いては」
「・・・」


ふつふつと語る咲夜。
何処か機嫌が悪そうに見えるのはきっと気のせいである。


「絆創膏に、消毒液…ガーゼに湿布に包帯に…」
「行って来ます」


真司は咲夜の手にあった薬箱を半ば強引に奪って部屋を逃げるように抜け出した。


元々、レミリアのお仕置きで怪我が耐えない真司だったが…ここ最近は美鈴との手合わせで怪我の頻度は更に多くなっていた。
レミリアやフランも弾幕ごっこなどで怪我をすることはあってもすぐに治ってしまう。
美鈴も二人ほどではないが、放って置いても問題ない身体能力だった。
咲夜に至っては病気も怪我もしない。
言ってしまえば、この薬箱の消耗は全て真司が使った所為だということになる。
それならば本人が責任を持って補充しに行くのは当然だった。


・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
・・


-永遠亭近く・竹林前-


(…参った…)


一度だけ以前に来たことがあった真司はここまでは何とか迷わずに来れた。
だが、以前来たときは地図を持っていた。
今回は逃げ出してきたので、そんなものを持っていく余裕は無かった。
今更帰るのも格好がつかない上に面倒だった。


しかし、この竹林を迷わずに進む自信は皆無だった。
どうするべきかと竹林の前で立ち往生をしていた真司。


「そんなところで何してるんだい?」
「…ん?」


不意に声を掛けられた。
振り向くとそこには一人の少女が居た。
地面に届きそうなほどに長い青紫の髪が特徴的な少女だった。


「いや、この先にある屋敷に行きたいんだが…」
「どうせ暇だし、案内してやるよ」


迷いそうだから。
とは言うまでも無く、真司の考えを察したかのように少女は答えるとさっさっと竹林の中へ足を踏み入れていく。
急すぎる展開だったが、渡りに船の状況だった真司は素直に少女の後をついていくことにした。


「・・・」
「・・・」


特に会話をするわけでもなく、黙々と竹林の中を進んでいく二人。
目の前を行く少女は全く足を止めることは無く、この竹林を熟知している様子だった。


「…とりあえず、助かったわ、ありがとな」
「いいよ、どうせ暇だったし」


少女はこちらを振り向くことも無く応えた。
しかし、気配、雰囲気から察するに人間の少女があんな場所に暇だから居るとは余り考えにくいことだったのだが…
その前にまずは聞いておかないといけないことがあった。


「俺は真司って言うんだが…」
「藤原妹紅。呼び方は好きにして」


今度も真司が全て言い終わる前に割って入ってきた。
お世辞にも話しかけやすい雰囲気を持つ少女…妹紅ではなかったが、こちらが話しかければすぐに応えてくれた。
淡々とぶっきらぼうに応えはするものの、話をすること自体は好きなのかもしれない。


どんな相手であれ、無音状態が苦手な真司にしてみれば幸いなことだった。
それならばと、話しかける内容を軽く考え始めた時だった。


「・・・ん?」
「・・・」


真司は何かに気がつき、足を止める。
妹紅も同様に足を止めた。


二人の先に動く影が見えた。
竹林の奥から現れたのは猪の顔と熊の身体をしたような厳つい体をした妖怪だった。
永遠亭があるとはいえ、竹林の中は視界も悪く、迷いやすい。
その上で永遠亭を訪れる人間は少なくない。
こんな場所を妖怪が狩場として狙わないわけも無かった。
以前来たときは、レミリアが横に居たため、そんな心配もなかったし、遭遇もしなかった。
しかし今回は武器も持たない丸腰の人間二人である。
格好の的になっていた。


(…仕方ないな…)


そうは言っても多少の心得はある真司。
ちょっとやそっとの相手ならば勝つことは難しくても逃げることならば出来る。
対峙する覚悟を決めて前へ出ようとした矢先、妹紅が妖怪の前へと徐に歩を進める。


「おい…!」


真司が制止しようとした時には既に妖怪の目と鼻の先におり、既に相手の射程範囲内だった。
それを察したのは相手も同じだったようで、既に片方の手が振りかぶられていた。


「お前は焼いても不味そうね」






次の瞬間、目の前に居た厳つい体をした妖怪は消し灰になっていた。
目の前にある炎の熱さが真司にも伝わってくる。
だが、その炎は周りの竹林には燃え移ることは無く、妖怪が消し灰になると自然に鎮火された。


(…この炎は…ってか…こいつは…)
「さ、もうすぐだから」


真司は様々なことを考え、整理しようとしていたが、妹紅はお構いなしに何事も無かったかのように再び歩き始めた。


「…いや、驚いたよ。妹紅は凄いんだな」
「そうでもない、お前さんの境遇の方が余程凄いよ」


相変わらず妹紅はこちらを振り向くことも無く話を進める。


「…知ってたのか」
「知らない人間の方がここら辺には少ないんじゃないの?」


妹紅は淡々と応える。
だが、相手が自分の立場を知っているというならば話しのネタは多くなる。
真司は最近館であったことや、身の回りであったことなどを妹紅に話した。
妹紅も自分からは話をしてこなかったが、相槌を打ったり、返事などは頻繁に返してくれていた。


・・・・・・
・・・・
・・


「それじゃ、私はこれで」
「助かったよ、また機会があれば」


永遠亭の前まで無事にたどり着いた真司。
ここまで案内してくれた妹紅に礼を言う。


「こちらこそ面白い話が聞けて良かったよ。次は是非うちの先生にでも話してやってくれ」
「…先生?」


妹紅は帰り際にそんなことを言いながら竹林の中へと姿を消した。
幻想郷では聞きなれない単語が出たために気になった真司だったが…今は目の前の永遠亭に向かうことにしたのだった。



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シンヤ(nanpP

Author:シンヤ(nanpP
・東方では始めて会った時からレミリア一筋。
・生粋の黒ニーソスキー。
・えろい。
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