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東方夢幻能RE/第9話「はじめての冥界③」


-白玉楼-


妖夢に連れられて階段上に見えた屋敷にまでやって来た真司。
大きな門を潜り、一歩敷地内に入ると、思わず立ち止まってしまった。
遠くから見ても大きな屋敷だとは思っていたが、近くで見るとその大きさは想像以上だった。
屋敷そのものは純和風な作りながら綺麗に改築、清掃が行き届いているのか、老朽化したり薄汚れている箇所は見当たらない。
そんな屋敷よりも目を疑ったのは庭の広大さである。
綺麗に清掃、整理された日本庭園が目の前に広がっていた。
ざっと見ても下手な学校の校庭などよりはずっと広かった。


「こっち」
「…あれ?そっちなのか?」


門を潜り、敷地内に入り…道なりに歩いていくと目の前にこれまた立派な玄関らしき場所が見えてきた。のだが…
妖夢は途中で道を逸れ、玄関とおぼしき場所に対して直角に曲がってしまう。
疑問を口に出した真司ではあったが、これだけ広い敷地で妖夢を見失っては迷子になる可能性が高かったので、とりあえず着いていくしかなかった。


「幽々子様、只今戻りました」
「あら、おかえりなさい」


妖夢の行き着いた先は広大な庭の縁側だった。
縁側には一人の女性が座りながらまったりとお茶をしていた。
その女性に妖夢は丁寧に帰宅の挨拶を済ませる。
二人の言動から察するに互いの関係性はおおよそ想像がつく。
身近にレミリアと咲夜という二人が居たというのもあったのだが。


「あ、どうもはじめまして。俺は…」
「知ってるわよ?いろいろと」


自己紹介をしようと思った矢先、笑顔で遮られてしまった。


「そんなことより、妖夢…貴方はそこでぼけっと何をしているのかしら?」
「…え?」


真司と女性…幽々子の会話を落ち着かない様子で眺めていた妖夢に突然話が振られた。
突然振られたことと、質問の意図が掴みきれて居ないため、焦っている様子である。


「貴方は早く庭の掃除を片付けてきた方がいいんじゃないかしら?」
「し、しかし…!」


妖夢は真司を睨みながら語彙を荒げた。
妖夢の立場を察するに、その反応は至極自然な反応だった。


だが、しばらくの沈黙があった後、妖夢は渋々とその場を離れていった。


「…さて、これで少しは落ち着いて話が出来そうかしら?」
「…まぁ…はい」


妖夢が去っていく後姿を眺めながら幽々子は変わらない笑顔で問いかけてきた。
軽く戸惑いながらも頷く真司。


「お茶でもどうかしら?麦茶だけど」
「いえ、遠慮しておきます」


幽々子は横においてあった良く冷えた麦茶が入っている瓶を目配せしながら呟いた。
お茶でも飲みに来た筈の真司だったが、何故か遠慮してしまう。


妙に、緊張していた。
幽々子は紫や永琳と同じで綺麗なお姉さんといった見た目である。
二人とは違い、線が細い感じではあったが…このような女性が外の世界で居たならばきっと気になる存在になっていたと確信できた。
それぐらいの美人ではあったのだが…何処か納得できない部分があった。
言葉では上手く説明が出来ない感覚ではあるのだが、紫とは違う意味で、心の奥が全く見えなかったのだ。
妖夢とは正反対である。


「…ちょっと見せたいものが」
「…?」


幽々子は言いつつゆっくりと腰を上げると広大な庭を歩き始めた。
真司は疑問を口にするでもなく、大人しく幽々子の後についていくのだった。


・・・・・・
・・・


広大な庭に半ばあきれながらしばらく歩いていくと、目の前にこれまた巨大な木が見えてきた。
屋敷、庭と来て…恐らくは桜の木と思われる木のサイズでさえ巨大だった。


幽々子はその巨木の前で立ち止まった。


「どう?立派なものでしょう?」
「…確かに、春になればさぞ凄いことになりそうですが…」


先ほどよりも一段と嬉しそうな笑顔で話しかけてくる幽々子。
驚きながらも率直な意見を述べる真司。


「残念ながら…今まで一度も満開になったことはないのよね~…」
「…そうなんですか…?」


真司はそう言いつつも納得していた様子だった。
これだけ巨大な桜である。
満開になるには相当大変そうに思えた。


「…少し前に満開にしようと頑張ったことがあったのだけれどね」
「…その結果は…?」


真司の質問の答えは幽々子の様子ですぐに察しが付いた。
そして幽々子もそのことを察していた。


「…貴方は…この桜…好き?」
「…好きか嫌いかで言えば…好き…ですが…」


幽々子の口から好きと言う単語が出たことで軽く動揺した真司だったが、すぐに質問には答えた。
だが、その答えはイマイチ歯切れの悪いものとなってしまっていた。
幽々子の言動から察するにこの桜が大切なものだということは分かった。
だが、真司にしてみれば…余り好きにはなれないというのが正直なところだった。
そうは言っても幽々子の前で嫌いと言えるはずも無く…だが、胸を張って嘘を付く事も出来なかった結果がこの有様だった。


「…そう、良かったわ。花が咲く頃になったら是非」
「…はい、その時には」




変わらず笑顔で答える幽々子。
その心境はやはり探ることは難しかった。





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Author:シンヤ(nanpP
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